富士通とNVIDIAのAI用IC共同開発 – 技術と今後の展望

AIが導く未来

協業の背景と目的

富士通とNVIDIAは2025年10月、AI分野での戦略的協業拡大を発表しました。急速に進化する生成AIや大規模モデルを産業に実装するには、従来型とは桁違いの計算インフラが必要です。富士通CEOの時田氏は「AIが企業や社会で本格活用されるためにはそれを支えるインフラが必要」と強調し、このインフラをNVIDIAと共同開発する狙いだと述べています。協業の目的は、企業が自律的に学習・進化するAIを活用して競争力を強化できるよう、次世代のAI計算基盤を共同開発することです。

背景には、日本発の技術でAI産業革命を推進したいという思いがあります。富士通はスーパーコンピュータ「京」や「富岳」で培った先端技術を持ちますが、近年のAI需要に応えるにはGPUを含む新たなアーキテクチャが必要でした。NVIDIAはAI計算のデファクトスタンダードであり、世界最先端のGPU技術とソフトウェアエコシステムを保有しています。日本の産業基盤と米国GPU技術の融合により、AIインフラを抜本的に強化するのが今回の協業の狙いです。特に日本では高齢化による人手不足など社会課題も多く、両社はAIエージェントやロボット技術で課題解決と新たな成長機会の創出を目指すとしています。


開発されるAI用ICの技術的特徴と用途

協業の柱となるのは、AI計算に特化した新しい集積回路(IC)基盤です。富士通は現在、「FUJITSU-MONAKA」と呼ぶ次世代CPUを開発中で、これはArmアーキテクチャ採用・2nmプロセス製造の高性能・省電力CPUです。モナカCPUは多コア設計(144コア)かつ3次元実装により、性能と電力効率の両立を図っています。

NVIDIAとの協業では、このモナカCPUとNVIDIAの最新GPUをシリコンレベルで密結合したAIコンピューティング基盤を開発します。具体的には、NVIDIAの高速チップ間インターコネクト「NVLink-Fusion」技術を用いて、モナカCPUとNVIDIA GPUを直接高速接続します。これによりCPUとGPUが単一の計算資源のように動作し、大規模AIモデルの学習や推論を効率的に実行できるようになります。

用途面では、この新IC基盤は産業向けのフルスタックAIインフラとして設計されています。ヘルスケア、製造、ロボティクスといった領域ごとに最適化したAIエージェントを動作させ、膨大なデータ分析やシミュレーションを高速に処理します。富士通のAIソリューション「Kozuchi」とNVIDIAのAIフレームワーク群(NeMo、Dynamoなど)を統合することで、自律学習・進化型AIプラットフォームを提供します。


関連する技術要素(GPU・量子・HPCなど)

  • GPU

    NVIDIAのGPUは行列演算に優れ、大規模AIモデルの学習・推論に不可欠です。CUDAを中心としたソフトウェアスタックも統合され、開発者は既存フレームワークをそのまま利用可能です。

  • HPC(高性能計算)

    富士通のモナカCPUはスーパーコンピュータ開発で培った技術を継承し、HPCとAIの両立を目指しています。次世代スーパーコンピュータ「FugakuNEXT」でもモナカCPUとNVIDIA GPUが採用される予定です。

  • 量子技術

    将来的には量子コンピュータや量子インスパイア技術との連携も視野に入れられています。AI・HPC・量子の異種協調による次世代計算基盤が期待されています。


富士通とNVIDIAそれぞれの役割・強み

  • 富士通

    ArmベースCPUの設計、HPC技術、国内産業知見を提供。MONAKA開発と産業特化型AIエージェントの実装を主導。

  • NVIDIA

    世界トップクラスのGPUとAIソフトエコシステムを提供。NVLink-Fusion技術でCPUとの緊密な接続を実現し、フルスタックAIインフラを展開。


産業への影響と展望

  • AI産業

    企業ごとの課題に特化したAI導入が加速。ヘルスケアや製造、ロボティクスでの実装が期待される。

  • 半導体産業

    日本発のCPUとNVIDIA GPUの協業により、国内半導体技術の存在感が増す。他社も追随し、CPU–GPU協業の潮流が進展する可能性が高い。

  • 研究・社会課題解決

    FugakuNEXTを中心に科学研究の高度化を実現。少子高齢化や医療課題の解決にも寄与する見込み。


プロジェクトのスケジュール

  • 2027年: 富士通「MONAKA」CPUリリース。NVIDIA GPUとの接続試作機を提供開始。

  • 2028〜2029年: 試作IC完成・商用準備。産業・研究機関での利用拡大。

  • 2030年前後: FugakuNEXT稼働開始。日本発のゼタスケール級AI-HPC基盤として本格稼働。

  • 2030年代: 量子技術も組み込んだAIインフラの進化とグローバル展開。


まとめ

富士通とNVIDIAの協業は、CPUとGPUをシリコンレベルで結合した世界最先端のAI基盤を実現しようとする壮大なプロジェクトです。これは日本の産業競争力強化、社会課題解決、そしてAI・半導体産業の次のステージを切り拓く重要なマイルストーンとなります。

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